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まきべ〜のおでかけ日記
いすみライフマーケット
NPO法人 いすみライフスタイル研究所

自分生活@いすみ

第16回
地域や子どもと丁寧につながっていく―パヴェルさん・栄子さん家族の童話的ライフ

文・写真:三星千絵 写真提供:リターン(パヴェル・ベドゥナーシュ、石井栄子)
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映像製作ディレクター パヴェル・ベドゥナーシュさん
映像製作ディレクター 石井栄子さん

赤ずきんちゃん
「ちまちマ」での人形劇「赤ずきんちゃん」
 人形たち
パヴェルさん手作りの人形たち(写真提供:リターン)

人形劇中の石井栄子さん2014年1月の「いすみライフマーケットin ちまち」の会場で、何やら目を引く人形がありました。

人形を連れているのは岩船在住のパヴェルさん、栄子さんご夫妻。
この日の会場でお二人が上演されたのは「赤ずきんちゃん」。人形劇は子ども達を夢中にさせ、3回とも立ち見がでるほど盛況でした。

その人形たちやセット、もちろんすべて手づくりです。

※(左の写真)マリオネット劇場上演の様子。
まるで生きているかのような人形のなめらかな動きに子どもたちも興味津々。約15分の上演があっという間でした

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いすみと、家と、おばあちゃんたちとの出会い

栄子さんは福岡出身、パヴェルさんはチェコのプラハ出身。二人ともテレビ業界で映像ディレクターをし、「リターン」という映像製作会社を経営しています。

チェコには海がありません。新しい住まいを探そうと思った時に「海の近くに」と思ったのは、パヴェルさんの強い憧れからでした。海があってあったかい、東京が近く成田も近い『房総』のエリアで物件を探していた時、たまたまネットで見つけたのが今の物件。

「夜の7時ぐらいだったかな。それでもとっても気になって、翌日見に行っちゃいました」と栄子さん。
実際に行ってみて感じた第一印象は、『となりのトトロだ!』ということ。少し周辺を歩いてみると近くに住むおばあちゃんたちに遭遇。
色々と話を聞く中で、ここに住む人たちが好きになり、憧れでしかなかったことがみるみる現実味を帯びて行きました。
「あのおばあちゃんたちに出会ってなければ、ここにはいないかもね」と栄子さん。
土地の魅力はもちろんのこと、人と出会い話をすることで、ここへの移住は確実なものとなったのでした。

岩船の里山
岩船の里山にあるパヴェルさんのお宅。裏山を手入れし、少しずつ心地のいい空間になってきています(写真提供:リターン)。

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手づくりのよさ。楽しみながらの家づくり

さっそく物件を購入はしたものの、あくまでも古民家。決していい状態ではありませんでした。
しかし、反対する人もいたけれど、パヴェルさんはチェコで家をつくった経験があるのできっとなんとかなるだろうと思ったそうです。

地元の大工さんにリフォームを頼んだものの、見てられなくなり、自分も参加。
できるところは、自分で大工仕事をしたそうです。その結果、お宅は、かなりの部分がセルフ・ビルドになったとのこと。
現在は、近所の子どもたちが気軽に遊びに来れるような庭づくりに取り組んでいます。

パヴェルさん
家の中を丁寧に説明してくれるパヴェルさん。この廊下も手作り。下の写真の欄間は、頂きもので、玄関の明り取りになっていました。
 セルフビルドのお宅
セルフビルドにもかかわらず日本風なお宅(写真提供:リターン)。
 庭のデッキ
庭の広場も自分で土台から作ったそうです。

いただきものの欄間幼小時代を過ごしたチェコは、当時共産主義の時代。モノは確かにあるにはあったそうですが、計画生産のため種類が極端に少なく、買い物にいっても生活に必要な最低限の種類のものしかなく、決して「豊か」ではなかったと言います。

そんな中、お母さんは「手元にあるものを活かす」のがとても上手でした。

お店には小麦粉しかない。そこで、その小麦粉でケーキやクッキーなどいろんなお菓子、パイやピザやパスタなどいろんな料理を作ったのだそうです。
そんな、お母さんを見て育ったパヴェルさんは自然と自分でできるものは自分で作ってみようと思う様になったといいます。

海で見つけてきた廃材を装飾に活用する。古い建具を再活用する。

「ここも自分でつくったんですよ」と説明してくれるパヴェルさんの表情はとても楽しそうでした。
ひとつひとつ丁寧に作るからこそ、大事に長く使うことができる。
少しずつ手入れを進め心地いい空間へと変わっているその家は、そんな愛情に満ちていました。

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1枚の絵から地域の人たちとの縁がはじまり、広がる

なんでも自分でつくってしまう器用なパヴェルさんは元々絵を描くことが好きでした。

ある日、以前から家の前のごみ箱が汚れてしまっていることが気になりました。そこで、絵画教室の一環として、子ども達に絵を描いてもらい、一緒にゴミ箱作りをやりました。
すると不思議なことに、岩船地域の収集場所がきれいになっていったそうです。聞くとご近所さん達が、パヴェルさんの真似をして、自分たちもペンキを塗ったりしているそう。
1枚の絵から地域活動が生まれ、地域の人とのコミュニケーションが生まれたのです。

それがきっかけで、パヴェルさんのところに絵を教えてほしいと子ども達が集う様になりました。
今では、毎週月曜日に無料の絵画教室を開催しています。絵画教室以外でもハロウィンやクリスマスなど季節のイベントごとに近所の子ども達がたくさん集まってきます。「家と学校以外の子ども達の居場所になればうれしいですね」と、栄子さんは語ってくれました。

ゴミ箱
絵画教室の子ども達と一緒に作った、海にまつわる生き物がかわいく描かれているごみ箱。
 かっぱ
玄関前の池に置かれた「かっぱ」人形。チェコにも「かっぱ」がいるそうです。
そうめん流し
そうめん流しを楽しみ子どもたち。
 ハロウィン
ハロウィンにもたくさんの子どもが集まりました。
絵画教室1
子ども向けの絵画教室は毎週月曜日開講中。
 絵画教室2
一生懸命絵を描く子どもたち。
(以上6点、写真提供:リターン)

 

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都会といなかの仕事。一緒にやることで生まれた安心感

今でも東京にいた頃の仕事を引き続き請けているそうです。
栄子さんは日本テレビ系「音のソノリティ」を長年担当。虫の音や小川のせせらぎなど自然の音を届けるという内容で、そのため近所が取材先になることもしばしば。「これ、家から撮ったものなんです」と、放送で使ったものを聞かせてくれました。生活と仕事が上手にリンクしています。

パヴェルさんは生放送のカメラマン担当として週2回東京へ通う傍ら、撮影コーディネータとして仕事を受けています。先日は、大原はだか祭りの映像をまとめ、チェコの国営放送でも放送されました。

こういった「リターン」としての仕事の合間に、パヴェルさんは、伊勢えび漁や力仕事など、地元の方のお手伝いもしています。

「東京での仕事は少しは持っていた方がいい。でも、もしなくなったとしても、生きていけるような気がするよ。困っていると言えば『手伝ってくんなお〜』と近所の人が声をかけてくれるから」。

少しずつ築きあげてきたご近所さんとのつながりは、ここで暮らしていく安心感へ繋がっていました。

遠い異国からやってきたパヴェルさんですが、疎外感はあまり感じないそうです。「元々外人だし、宇宙人だと思われているのかもね」と栄子さんは笑います。

それでも、パヴェルさん自身、自分でやってみないとわからない、経験をしないと話はできないと、積極的に色々な人と話をして、地域とかかわりを持つ努力をしていることも大きいかもしれません。

何にでも興味を持って話を聞き、一緒に時間を共にする。地元の漁師さんの伊勢えび漁を手伝い、大原はだか祭りでは一緒に御輿を担ぐ。「あいつはよく動く、働くと思ってもらうことが大事なのかも」とパヴェルさんは言います。

自分がどこから来たものであろうと、同じ目線で「苦楽を共にする」、「時間を共有する」ことが、地域にいち早く馴染める術であって、本当は一番大事なことなのかもしれません。

神輿を担ぐパヴェルさん
大原はだかまつりには毎年参加しているパヴェルさん。
 地域の皆さんと
地域の方々と一緒に木を植える活動もしています。
(以上2点、写真提供:リターン)
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取材を終えて気がつくと、便利すぎる世の中に慣れてしまっている自分がいました。
「お金」で時間と便利を買うことが当たり前になってしまって、手間ひまをかけて自分ですることのよさ、「お金」では買えない見えない何かで繋がるよさ、をふと忘れてしまいそうになります。

「会社」や「お金」、何か一つに依存するのではなく、いい具合にバランスを取りながら「自分らしい暮らし」を楽しんでいるパヴェルさん・栄子さん家族を見ていると、そんな大事なことを思い出させてくれるような気がしました。

人形を作るパヴェルさん
人形を作るパヴェルさんとそれを見守るレオ君。
 完成した人形
出来上がった人形。その名も「パヴェル」。
(以上2点、写真提供:リターン)

「いなかは日本的なものが凝縮されている」とお二人はいいます。
手作りでつながっていく、古き良き日本を思わせる丁寧な生き方を、ここいすみの岩船で感じることができました。
そして、地域の人たちとつながり、親しまれる異国の人、パヴェルさんの生き方は、童話に描かれるような世界でした。

 リターン
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