以前ブログでもご紹介しましたが、千葉県教育文化研究センターで編集・発行されている「ちば 教育と文化」のNo.89(2017年)で「夷隅(いすみ)っておもしろい」という特集が組まれました。
この特集のために、「いすみライフマーケット in ちまち」(通称「ちまちマ」)を題材にした文章を寄稿しました。記録のために、改めてこちらにも掲載したいと思います。
記事を書き直すなどの変更はしておりません。
「いすみライフマーケット in ちまち」ってどんなイベント、マーケットだろうとお思いの方、ぜひご一読ください。
なお、この「教育と文化」の読者の方々は、いすみや当NPOのことをご存知ない方も多いかと思い、そこのご紹介もさせていただいています。
「いすみであれこれ結ばれる」
空き施設を活用した市民マーケット―いすみライフマーケット in ちまち
・いすみ市とNPO法人いすみライフスタイル研究所
・保育所跡地を利用した市民マーケット「いすみライフマーケット in ちまち」
・市民の交流の場とスモールビジネスの揺籃装置として
(えざき)
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「いすみであれこれ結ばれる」
空き施設を活用した市民マーケット―いすみライフマーケット in ちまち
NPO法人いすみライフスタイル研究所 理事 江崎 亮
いすみ市とNPO法人いすみライフスタイル研究所
まず、本題に入る前に、本稿の舞台となるいすみ市について、ご存知ない方も多いのではないかと思います。また、今回ご紹介するマーケットの主催者であるNPO法人いすみライフスタイル研究所についても、ご存知ない方が多いと思いますので、軽くご紹介させていただきます。
さて、いすみ市は、外房地域九十九里浜の最南端にある人口4万人弱の街です。平成の大合併の時、2005年12月に当時の夷隅町、大原町、岬町の3町が合併してできました。
伊勢海老の水揚げ量が日本一、いすみ米(旧夷隅米)は千葉県三大米(多古米、長狭米)のひとつとして知られています。また、寒冷地に棲む生物の生息南限、温暖地に棲む生物の生息北限でもあるそうで、寒冷地と温暖地の両方の生物が棲む千葉県一の生物多様性を誇る、里山と里海がコンパクトにまとまっている自然豊かな街です。さらには、首都圏でも珍しいローカル鉄道「いすみ鉄道」が街中を走り、週末や連休になると沢山の鉄道ファンが訪れる街でもあります。
ただ、街には目立った産業も観光地もない地味な街で、外房地域の自治体のご多聞に漏れず「消滅可能性都市」(日本創生会議・人口減少問題検討部会)にも含まれています。
次に、NPO法人いすみライフスタイル研究所ですが、合併したとはいえ、いすみ市は人口減少や少子高齢化に伴う地域力の弱体化が予想されていました。そこで、地域の活性化を図る目的で、いすみ市商工会青年部や市役所若手職員などが集まり、2006年に「いすみ市を考える勉強会」が設けられ、2007年に「いすみ市まちづくり推進協議会」が設立されました。そして、この協議会で議論、検討された成果をもとに、移住定住促進や地域の情報発信を活動の柱にしたNPO法人いすみライフスタイル研究所が2008年に設立されました。
2010年から2015年までの間、市からの業務委託を受け、庁舎の一角を借りていすみでの田舎暮らしをサポートする相談窓口を運営してきました。おかげ様で、「田舎暮らしの本 2015年2月号」の「東日本の『田舎暮らしお助け団体』68」の特集で「移住者向け各種サービスの充実度部門」において第1位になるなど、我々の活動を市内外から評価していただいています。また、市の財政難から委託が終わった後は、事務所を商店街の空き店舗を借りて移し、独立採算のもと、行政と密接に連携を取りながら活動を継続しています。「田舎暮らしの本 2017年2月号」の「住みたい田舎ランキング首都圏エリア」でいすみ市が総合第1位になりましたが、これは行政といすみ市定住促進協議会はじめ当NPOなど市民・民間が両輪となって活動している結果が評価されたものと考えられます。
保育所跡地を利用した市民マーケット「いすみライフマーケット in ちまち」
さて、本題の「いすみライフマーケット in ちまち」(略称「ちまちマ」)です。これは、少子化と人口減少に伴い2011年3月末をもって廃園になった千町保育所の跡地を利用するための事業として、夷隅四季の会(旧夷隅きゃらぶき普及会)の皆さんと当NPOが共同でいすみ市に対して提案をし、施設を借り受け実施している市民マーケットです。2012年の3月から2014年の3月までの3年間は「いすみ市まちづくり提案事業」としていすみ市から補助金をいただいて実施、2014年4月以降は出店者さんからの出店料ほか自主財源で運営しています。毎月第二日曜日、10時から15時まで開催しており、2017年3月で57回を数えました。
この市民マーケットのコンセプトは「いすみであれこれ結ばれる」。
移住者や地元民を問わず、また、老若子男女そして子どもを問わず地域住民が交流する場として機能することを大きな目的のひとつとしています。移住定住活動を推し進めている当NPOとしては、移住者の地域デビュー、移住者と地元民との交流の場づくりといった移住後のアフターケアの場として欠かせないマーケットと考えています。
出店者は、毎回10~20店舗あり、いすみ市民を中心に、北は千葉市や東金市、南は南房総市まで含めた近隣の地域からいらっしゃっています。来場者は、100名~200名程度。
出店内容ですが、地元の季節の食材を使って地元のお母さんたちが郷土料理やお惣菜を提供するカフェ「自然の恵館」をはじめとして、天然酵母パンや無添加の手作りお菓子、地元いすみ米を使った手で握ったおにぎり、焼き鳥、手作りアクセサリー、カードリーディング、アロマセラピー、マッサージなどがあります。また、子ども連れの来客が多く、保育所跡地という場所柄もあることから、子育てママさんたちによる子供服のフリーマーケットや古着の交換会なども頻繁に行われています。
この他、太巻き体験、魚のさばき方教室、ヨガ教室、アクセサリーの手作り教室、ミニ四駆の走行会や組み立て教室、ロケットストーブ体験、似顔絵コーナーなどのアクティビティも行われています。
主催者側の工夫としては、一教室を使って、子どもが1日遊べる「迷路」をアトラクションとして常設しています。もちろん、子どもたちが飽きないように毎月変化を持たせるようにしています。この迷路、子どもたちからも人気なのですが、遊びに来てくれたママさんたちも子どもたちを遊ばせておいて、自分たちはおしゃべりをしたり、ゆっくりくつろげると人気です。また、季節にちなんだアトラクションも用意しています。年末からお正月にかけては餅つき大会、夏には大きなビニールのプールを設置し「子どもプール」を開設、冬には石焼き芋など、自分たちでできる手作りのものを提供しています。
こうした取り組みを継続してきた結果、毎月、会場では子どもたちが元気に走り回り、大声を出して遊び回る姿がいつも見られるようになりました。
市民の交流の場とスモールビジネスの揺籃装置として
一方で、5年間の間にいくつかの変化が現れました。
市民主催のマーケットが周辺地域にたくさん増えてきたことや、この「ちまちマ」に倣い月一回の開催で同じ市内で始まった「港の朝市」が毎週開催になったことなどで、マーケットへの出店者や来場者が分散するようになりました。このためか、残念ながら、出店者や来場者の数が次第に減ってきているように思われます。
市民が出店するマーケットということで、手作りのものを買い求めに来ていた来場者の中には、商品やサービスに飽き、他のマーケットに足を運ぶようになったり、毎月やっている安心感から気が向いた時にやってくるようになったりという場合が出て来ているように思います。
また、出店者の中にも、来場者が予想よりも少ないため、もっと来場者が多い茂原市や東金市、木更津市、千葉市など都市部のマーケットに出店するようになったり、いすみ地域そのものからそうした都市部に引っ越したり、逆に、手作りによる収入源の確保を諦め他の仕事に就くようになったりと、各人各様の道を歩まれたりしているようです。
我々も、千葉市をはじめ県北西部地域のマーケットで何千人、何万人という来場者があると聞くと、とてもうらやましく思います。例えば、いすみ市の周囲20km近辺にある市町村含めてもたった20万人くらいしか人口がありません。近くの市原市よりも少ない人口です。人口が少ないということが、こんなにも集客力が弱く、需要が細いのかということを実感しています。
さて、どんなアトラクションを用意したら少しでも多くの人に来てもらえるのか、毎回頭を悩ませているのですが、一方で、この「ちまちマ」の雰囲気が好きで、毎月の開催が楽しみという固定ファンも、おかげ様で出来てきました。
「ちまちマ」に遊びに来てくださる方々は、ショッピングモールでの買い物や観光施設でのレジャーに飽きたり、興味がなかったりで、むしろ、このマーケットのように商売商売していなくて来場者や出店者が気軽に思い思いに会話したり、まったりと過ごしたりということを選んで来てくれているように思います。
また、子どもから目を離しても、会場にいる大人の誰かが見守ってくれているので、安心して子どもを遊ばせることができるというのも、子ども連れのママたちに好まれているのだと思います。子どもたちにもそのママたちの安心感が伝わるのか、屋外・屋内を問わず元気に遊び回っています。
出店者の中にも、このマーケットの雰囲気が好きで可能な限り出店してくださる方も少なからずいらっしゃいますし、新規での出店というのも絶えることがありません。新規の方々の多くは、手作りのものを売っていきたいけれども、都市部のような大きなイベントにいきなり出店するのは自信がないので、試しに「ちまちマ」で力をつけて、という例も少なくありません。
また、いすみに引っ越してきたばかりで地域のことがよくわからないので、とりあえず遊びに来た、出店してみた、という例も絶えることがありません。
こうした状況を考えますと、確かに毎回、集客は厳しいのですが、市民のニーズがある以上、原点をしっかり見つめながら辛抱強く継続していくことが大切なのかなとも思っています。つまり、移住者が地域デビューする場、市民交流の場としてきちんと機能させること、市民が趣味や特技を活かしてスモールビジネスを始めようとしている時の揺籃装置としての機能を果たすことを、改めて確認しながら、子どもたちが元気に遊びまわる声を励みに、運営を続けていければと思います。
※参考:いすみライフスタイル研究所ホームページ http://www.isumi-style.com/
投稿日時 : 2017年8月23日 00:39
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